怒り狂う女とお役所仕事

怒り狂う女とお役所仕事

役所で見かけた、怒り狂う女。

「警察を呼んでちょうだい!」上階から駆け下りて来た、狂乱の女が叫ぶ。職員が集まってくる。

「どうされました!?警察…!?警察呼んでだって!(他の職員に促す)」

が、話を聞いているとどうも、二重に払った税金が返ってこない。郵便局によると役所に二重に払った証拠がある。なのに役所側に記録がない。しかも非常に無礼な対応をされた。ということらしい。

それで怒り狂って、警察を呼べと喚いている。

貧しい生活の伝わってくる、みすぼらしい格好をしている。「出ていけと言われて」と叫んでいる。どうやら入ってはいけない場所に侵入したらしい。女は「タイプの顔じゃないのに、顔をこんなに近くまで寄せてきたの!一番偉い人っていってたのに!一番偉い人が一番不快にさせるんだから!警察を呼べ!私は時給1000円の人間だからさ……」などと喚き散らしている。

数分も経つと、女に対応している職員二人はニタニタと小バカにした笑みを浮かべて対応していた。女の周りには、数人の職員の塊がいくつも出来て、ヒソヒソ話で「警察を呼べですって……」などと言ってやはり皆一様にニタニタと笑っている。女の怒りの矛先がキチンと定まっていて自分達には向かないようだと、足元を見てニタニタし始めたように思えた。

それを見た自分は、「彼女は怒っている、怒り狂っている。だからあんなおかしな事を言っている。でも、税金のことは彼女の言う通りなのかもしれない。もちろん、勘違いかもしれない。ともかく、怒っているからあんなおかしな事を言うんだ」などと考えた。

「さて、彼女はおかしな人間なのだろうか?人間、心から怒れば皆あのようになる。なのに、周りの職員たちは侮蔑と嘲笑の表情や仕草を向けることに全く抵抗がないのだな」

「彼女が、怒って馬鹿な事や理不尽な事を口走るのは、人としてそう不自然な事とも思えない。が……」

あのように、ニタニタと小馬鹿にした表情を浮かべ、ヒソヒソ話をして、怒った人間に奇異の目を向ける。悪びれもせずそんな真似をする人間の方がどうかしている。DNAに刻まれた、群れの一部としての立ち振る舞いを脳死で行っているにすぎない。

建設的に仕事を進めるためにも、彼女に恥の上塗りをさせないためにも、怒りが収まるように導いてやるべきだろう。だが、彼らの行為はその真逆である。

それは本当に彼らが自分で考えて行った振る舞いなのだろうか。そこに個人や自我というものはあるのだろうか。海藻が波に揺蕩うような、限りなく受動的な反応だ。精神を停止させ、原始的な本能に従って、それを群れによって増幅させた彼らは、愚かしい群体として私の目に映った。

そんなものは人間の振る舞いとはいえない。自我や精神といった高次のものは認められない。それなのに、嗤うんじゃない――

そんな事を考えながら外に出た。あんな風に生きるのなら、動物として生きるなら、即座に死んでしまっても構わない。その精神はもう既に、死んでいるようなものなのだから。

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